COLUMN

PROJECT

Integrity-誠実であること。

お客様とミーティングを重ねてデザインやコストを決定後、

工事スケジュール調整、施工会社への発注、

続いて工事着工へとプロジェクトは進んでいきますが、

私達の全ての業務がお客様には見えていません。

 

私たちは、目指す空間の完成イメージを

3次元パースや図面、素材サンプル等で

出来る限り具体化してお客様と共有します。

 

 一方で、そのゴールに向かう道筋はたった一つでは無く、

プロである我々の裁量に委ねられている要素が数多くあります。

 

例えば空間を構成する素材の選定について。

 

メーカーがしのぎを削ってリリースする多くの製品群の中から

案件の候補となる素材を絞り込む作業は設計者次第です。

 

そして、私たちがお客様に提示するサンプルは

数多くの選択肢の中のほんの一部。

 

もちろんお客様の嗜好を考慮しながら慎重にセレクトしますが、

ごく短時間で適当に選定したとしてもお客様が知る由もありませんし、

より相応しい選択肢を設計者が見過ごしていたからと言って、

お客様から責められる可能性は極めて低いでしょう。 

 

施工段階では、現場の状況に応じてお客様の了承を得ずに

設計者の判断で変更を加えることも珍しくありませんが、

その変更内容をお客様が知らされないケースもあるでしょう。

 

良くも悪くも、ものづくりのプロセスでは、

サービス提供側の裁量に委ねらる要素が多いのです。

 

弊社では、こんな事例がありました。

 

ご自宅のリノベーションを担当させて頂いたお客様から

10年ぶりにお電話を頂き、病院を退院して自宅で療養するので

窓面のカーテンをリフレッシュしたいとのご依頼でした。

 

 早速カーテンサンプル帳を持参して打ち合わせを行い、

その場でカーテン生地を決めて頂き、

およそ2週間後の納品をお約束してお客様のご自宅を後にしました。 

 

 

 

カーテンの発注と取付工事の日程調整を終えて、

あとは納品当日を待つばかりとなった時、

ご遺族から突然の訃報が届きました。 

 

長いお付き合いのお客様でしたし、

リフレッシュした空間で心地よく過ごされたかったお気持ちを思うと

本当に残念でならない思いでした。 

 

工事は予定通り実施したいとのご意向を受けて

納品当日を迎えました。

 

ご遺族に立ち会って頂き、窓3面への取付が無事完了。 

 

シャープシェードというスタイリッシュなスタイルカーテンで

空間が明るくなったと、ご遺族にも喜んで頂きました。 

 

ところがどこか違和感を覚えるのです。 

 

シンプルながら質感のある生地はお客様のお好みにマッチしていて

間違っていないはずなのに・・・ 

 

オフィスに戻ってサンプル帳を見直してみると、

「カラーバー」というアクセントになるオプション部材が

取り付けられた事例写真が掲載されていました。 

 

この部材がオプションである事を見落として発注したため、

取り付けたカーテンに違和感を覚えたのです。 

 

カラーバーが無くてもシンプルで美しいのですが、

お客様はさり気ない遊び心をお持ちの方でした。

 

  

 

お客様はもういらっしゃいませんし、

ご遺族も打ち合わせ時は不在でしたのでご存知ありません。 

 

一人暮らしでしたので、お住いを直ぐに売却される可能性が高く、

このまま済ませても誰にも迷惑は掛かりません。 

 

しかし、亡くなられたお客様がサンプル帳に貼ってある

生地のカットサンプルよりも、写真のイメージを気に入られて

お決めになったに違いありません。 

 

全て交換になりますので相応の費用が掛かります。

交換したとしても、お客様の笑顔を見ることはできませんし、

近いうちに原状回復工事で廃棄されるでしょう。

 

それでもやはり、お約束通りのカーテンを納めるべきとの判断から、

改めてご遺族に今回の経緯をお伝えして、

後日、サンプル帳の写真通りのカーテンに交換させて頂きました。 

 

お客様の大切な空間を創り上げるプロセスで、

自らの意図が大きく関わっているということを

改めて、設計者自身がしっかり自覚して、

常に誠意ある対応をとるべきだと考えます。